and視察隊は本物のクロワッサンを探してパリの街を彷徨うー&クロワッサン物語 その1ー
2019.09.26
and株式会社が現在進めている「&クロワッサン・プロジェクト」。そのゴールは「クロワッサン専門店」のオープンです。
地元で愛される素敵なお店をつくるには、学ぶべきことがたくさんあります。そこで2019年8月、本場の味を学ぶべく、フランスはパリとニースで社員による視察ツアーが行われました。
and社員が思い描く理想のクロワッサンとは? 視察に同行した”銀河ライター”こと河尻亨一氏が旅の一部始終をリポートします。
ゼロから始まるクロワッサンづくり
総勢15名のand社員と関係スタッフは旅に出た。究極&至高のクロワッサンを求めて。目指すはフランス、パリ&ニースだ。
and社はクロワッサン専門店のオープンを目指している。おいしいクロワッサンを提供するには、まず本場の味を知らねばならない。作り方も研究したい。今回はそのための視察ツアーだ。
ツアーに参加するのは社員だけではない。クリエイティブ・ディレクター、映像作家、フォトグラファーとその助手ーーand社のクロワッサン専門店をサポートするスタッフたちも参加している。クロワッサンづくりを監修することになる二人の焼き菓子屋さんも。
視察ツアーの一部始終を物語るべく、銀河ライター(筆者)も同行することになった。
だが、この旅の主役はなんと言っても勝本忠男(44歳・写真左)&金井祐(34歳・写真右)の二人だ。なぜならお店がオープンしたあかつきには、彼らが食材を仕入れて生地をこね、クロワッサンを焼き、店を回していくことになるからだ。
ちなみに彼らはパンやお菓子の職人ではない。料理人でもない。これまでやってきたのはand社の主な事業であるケーブルテレビの設備関連の仕事だ。クロワッサンというものを、その人生において一度たりとも焼いたことはない。
この視察を通して、彼らはどのように変わっていくのだろう? この物語は”ゼロから”新しいことに挑戦する二人の男の魂のドキュメント。言うならばand社版の”プロジェクトX”である。
まず、若い金井に話を聞いた。
「(この役割が)なんで僕に回ってきたかわからないんですけどね…」と前置きしつつ、彼はツアーの抱負を次のように語る。
「スタートは本場の味から入ったほうがいいと思うんです。まずは日本で勉強してから、ということも検討したんですけど、パリのクロワッサンを知らないまま、日本人好みの味やつくり方に馴染んでしまうのもどうかと。今回の視察では、サクサクした食感はもちろん、甘味と塩気のバランス、後味や余韻など、本場の空気の中で丸ごと体感したいですね」
ツアー初日。朝7:00。パリでのクロワッサン視察が始まった。視察隊はこの日と翌日にかけてパリ市内計24軒のパン屋・お菓子屋をめぐる予定になっている。
正確にはパン屋、お菓子屋ではなく”ブーランジェリー”と”パティスリー”だ。職人みずからが小麦を吟味し、生地をこね、焼いたパンや菓子を売る店を指し、フランスでは法律で厳密に資格が設けられている。
当然のことながら、腕のいい職人がいる店は人気が出る。なかでもパリジャンのクロワッサンへの思い入れは強い。パリでは毎年クロワッサンコンクールが開催されており、上位入賞店にはお客さんが列をなす。今回視察する店の多くはそんな名店たちだ。
初日午前中のメインは「メゾン・カイザー」。「50年に一度の天才パン職人」と言われるエリック・カイザー氏のお店である。メゾン・カイザーは現在日本を含め世界中に店舗を展開しているが、本場パリのお店の味わいはどうか?
ひと口食すなり金井が感嘆のひと言を発した。「バランスがいいっすね」。何かピンとくるものがあったようだ。
この段階ですでに数軒をめぐって試食し、それぞれにおいしいと感じていたが、カイザーのクロワッサンには風格のようなものが漂っている。食感や味わい、食後に残る余韻も見事だ。
クロワッサンに”王道”が存在するのであれば、これがそれかもしれないと思わせた。視察隊一堂、納得感のある表情である。
視察隊を襲った想定外のアクシデント
その後も徒歩で、あるいはウーバーでパリ市内を移動しながら、クロワッサンをーー
食す!
食す!!
ただただ食す!!!
15名の日本人が街をそぞろ歩きをしながら、人気のパン屋に入ってはクロワッサンを購入、試食しては移動しまた試食を繰り返す。ランチも抜いて路上で食べ続ける。
道端に落ちたパンくずに鳩が寄ってくる。平和な光景だ。
人気店のクロワッサンとはいえ、食べ続けていると疲れが出始める。すると味もジャッジしづらくなる。クロワッサンの”食べ歩き”などと言うと、気楽でカンタンなお仕事に思えるが、実際にやってみるとなかなかタフ&ハードなワークである。
つまり、これはもはや修業。メゾン・カイザーの店では盛り上がっていた金井にも迷いが生じ始めたようだ。
「さっき乗ったウーバーの運転手さんが、地元の人の感覚として『味としてはどの店も大差ないんじゃない?』って話をしていたんですけど、実は僕もそう思ったんですよ。ここはしょっぱ目だとか甘めだとか多少の差はありますけどね…。うーん、一体何を基準にすればいいのか? 悩ましいところですよね」
さらに想定外のアクシデントが視察隊を襲う。パリを訪問したのは日本のお盆期間。フランスにはお盆はないと思いきや、盆よりもはるかに長い夏休みがある。
目指す人気店の中には、「夏季休業中。みなさん良いバカンスを!」といった紙が、入り口のドアあたりにサクッと貼られており、シャッターが降りて中の様子さえうかがいしれない店舗もあった。海を越えてやってきた視察隊の疲労はピークに達しようとしていた。
こうなると息抜きも必要だ。クロワッサンを求めて街をさまよっていると、思わぬ”観光名所”に出くわすこともある。視察隊は映画「アメリ」で主人公が水切りをして遊んだサンマルタン運河でつかの間のパリ気分を楽しんだ。
クロワッサンめぐりの合間に、著名なブックショップにも立ち寄る。
そんなこんなで、いつの間にか夕暮れが迫り、初日のスケジュールが終わる。だが、「&プロジェクト・クロワッサン」はまだ始まったばかりだ。
(&つづく)