クロワッサンはカルチャーであり職人の生き様でもあるー&クロワッサン物語 その2ー
2019.09.30
and株式会社が現在進めている「&クロワッサン」プロジェクト。そのゴールは「クロワッサン専門店」のオープンです。この記事シリーズでは、2019年8月に実施されたパリとニースでの視察ツアーの様子を、”銀河ライター”こと河尻亨一氏がレポートしています。
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人は食す。なぜならそこにクロワッサンがあるから
ツアー2日目。朝7:30集合。今日も午前中からスケジュールはてんこ盛りだ。初日と同じく、ひたすらパン屋・お菓子屋をめぐってクロワッサンを食べまくる(たまに書店にも寄る)。今日はどんな逸品に出会えるだろう?
まず向かったのは「サーカス・ベーカリー」。2018年にオープンしたばかりのお店だが、シナモンロールが絶品とのことですでに大人気。看板さえないシブい外観、余計な装飾のないシンプルな店内スペースもいい。「インスタ映えする」との評判も広まって、世界中からパン好きが訪れるパリの”新名所”になっている。
このお店ではクロワッサンはつくっていないが、焼きたてのシナモンロールは噂通りのクオリティ。
人はよく、パン類のおいしさを表現するときに、「外はサクサクで、中はふわふわ&もちもちで…」などと形容するが、まさにその三位一体をパーフェクトなレベルで体現する逸品がそこにあった。
スタッフの接客も爽やか&スタイリッシュ。売り場スペースがそのままパン工房につながっており、店の奥では職人がキビキビ仕事をしている様子がうかがえる。店内にはコーヒーとシナモンの香りが漂う素晴らしいお店だ。
幸先の良いスタートに、視察隊のテンションは一気に上がった。次に向かったのが「パティスリー・ヤン・クヴルー」。同店を経営するヤン・クヴルー氏は五つ星ホテルのパティシエとして活躍したのち、みずからのお店を開業。スイーツマニアの注目を集めている。
実はこのお店は昨日の午後も訪れたのだが、あまりに人気があるせいかクロワッサンは売り切れだった。今日は午前中に行ってリベンジを果たそうというわけだ。
ラッキーなことに今度は購入することができた。口にした瞬間、金井(下の写真奥)は再びショックを受けた。
「なんですかね? この食感のインパクト。焼きたてでもないのにザクザク食べられる。そう簡単にできることではないんでしょうけど、これはお手本にしたいですね」
さらにクロワッサンめぐりは続く。次に向かったのはモンマルトルの丘近辺の名店群だ。観光地であるためか、昨日のようにバカンス中のお店は少ない。
2日目は絶好調。訪れた店で出会ったお客さんから「あそこのお店もおいしいわよ!」といった情報を入手すると、急遽そっちに向かう。寄り道クロワッサンだ。行ってみるとすごい行列。期待はおのずと高まっていく。
こういった道中を続けるうちに、クロワッサンにはスタンダードな”型”が存在し、どのお店もそれをベースにそれぞれの個性で勝負していることがわかってくる。
ブーランジェリー(パン屋)がつくるクロワッサンとパティスリー(お菓子屋)がつくるクロワッサンで、大きさなど微妙な違いがあるようにも思える。おそらく「食事と捉えるか、おやつと捉えるか?」の違いだろう。
味や食感だけでなく、立地や店構え、看板、内装、商品のレイアウトから包装紙など、すべてが一体となってそのお店独自の”世界”を形成していることにも気づかされた。つまり、クロワッサンとはカルチャーなのだ。
人は食す。なぜならそこにクロワッサンがあるからだ
2日目の締めはシャンゼリゼ大通り86番地にある「キャトロヴァン・シス・シャン」。だれもが知るパティスリー「ピエール・エルメ」とコスメブランド「ロクシタン」が手を取り合って出店した、劇的に異色なコラボショップである。
内装をデザインしたのは、室内装飾家のローラ・ゴンザレス。色とりどりのマカロンと甘い香水の薫りが入り乱れる摩訶不思議なゴージャス空間の奥にさりげなくカフェスペースが設けられており、さらにその端にあるテイクアウトコーナーで、クロワッサンはひっそりと売られていた。
一軒目に訪れたサーカス・ベーカリーとのあまりの店舗ギャップに驚くが、どちらが優れているというものではないだろう。それぞれの世界観と客の好みがあるのみ。観光地の超高級店であれ、裏路地の庶民的なお店であれ、パリのパン屋・お菓子屋には、職人たちの持てる技と力を惜しげなく注いだクロワッサンがある。
そして視察隊は食す。そこにクロワッサンがある限り。
結果、28店舗(一部バカンス中あり)をめぐる”お腹いっぱい”のツアーとなった。お腹が満ちれば、次は内容を消化し栄養に変えなければならない。金井は2日間を次のように振り返った。
「クロワッサンしか食べてないですからね…。少なくとも『食べ慣れた』とは言えるんじゃないかと。あと、味や食感は様々だけど、オーソドックスが大事だということもわかりました。その上でアクセントにピスタチオを使っていたり、お店独自の工夫があるんだな、と。
次は日本のクロワッサンを食べてみたいです。意外とアベレージが高いかもしれないし、湿度や温度で変わってくるかもしれない。そうやって名店めぐりをやりながら、試作もしなきゃですね。まずはオーソドックスをしっかり学んで『個人の表現』を目指したいと。修業はこれからですね」
8月半ばなのに、パリはすでに秋の風。旅はこれで終わりではない。視察隊は翌日ニースに向かう。そこでは何が待ち受けているのだろう?
(&つづく)